サイバックスUniv.
無料体験版 お申込み

お役立ちコラム

最新事例で学ぶ!企業を守るコンプライアンス遵守の法的視点

2022年10月17日

1.コンプライアンスとは

昨今、「コンプライアンス」という言葉は既に社会的に浸透しており、企業経営における根幹的要素といえます。他方で、法改正は多岐の分野にわたって随時行われるため対応が追いつかない企業も少なくないと思います。

また、コンプライアンスには法令のみならず、社会規範及び社会倫理に沿った行動、並びにステークホルダー(株主、投資家、顧客、取引先、従業員等)の信頼維持という観点もが含まれ、社会情勢を踏まえて常にアップデートをする必要もあります。

 

コンプライアンス違反が生じた場合、それが法令違反であれば刑事罰、行政罰、行政処分等の制裁が科されることがあります。

また、巨額の損害賠償請求訴訟に発展すること、社会的非難等によるレピュテーションリスク、株主離れを生じさせるなど、企業存続に危険を生じさせることになります。

 

さらに、昨今は労働者側において労働対価(賃金)のみならず「働くことの意義」を求める風潮もあることを考えれば、離職率の防止及び優秀な人材確保のために、コンプライアンス遵守の意識を高く持つことが必要です。

 

今回は、このような観点から、昨今のコンプライアンス違反が問題となった事例を取り上げた上で、改めて企業に求められるコンプライアンス遵守についてご説明します。

 

2.昨今の事例

(1)法令違反事例

 

平成29年9月29日に、日産自動車株式会社は、完成した車両について「完成検査」を行う資格のない従業員が行っていたということを公表しました(以下、「日産自動車無資格者検査事件」といいます。)。

 

このような無資格検査は、道路運送車両法に違反するものであり、同社には行政罰として3,210万円の過料が命じられたようです。また、同社における無資格検査は6工場で行われており、再検査のために100万台以上のリコールが行われています(当時の発表では、同社としてリコール費用250億円以上を覚悟しているとの説明がありました。)。

 

外部弁護士による調査では、無資格検査の事実を係長以下の現場の従業員は認識しており、課長職以上は実態を知らなかったと指摘されており、「現場と管理者層の距離」が本事例の不祥事の背景として挙げられています。

 

経済的合理性の追求とコンプライアンスの遵守とは、時として衝突することがあります。経営者及び管理者層が、現場の実状を踏まえないままに経済的合理性とコンプライアンスの両立を求めることにより不祥事を誘発する危険があることを、企業は認識する必要があります。

 

(2)従業員の健康管理・労働時間管理事例

長時間労働等を理由に労働者が死亡する事案では、これまでも複数の裁判例で使用者の損害賠償責任が肯定されています。

 

昨今では、会社のみならず取締役にも損害賠償請求(会社法429条)が提起されるケースも少なくなく、特に取締役が労働者の長時間労働の実態を把握していた事案(特に、小規模会社の場合)では、その責任が肯定されやすい傾向にあります(東京高判令和3年1月21日労判1239号5頁参照)。

 

従業員の健康被害事案では、死亡に至ったケースや、疾病による後遺症が残った場合、精神不調に至った場合など何らかの結果が発生していることが通常です。

 

しかしながら、最近の裁判例において、長時間労働の実態がある場合に具体的疾患を発症していなくとも慰謝料請求権が認められた例があります(東京地判令和2年6月10日労判1230号71頁)。

この事例の特徴は、労働時間の実態を1ヶ月あたり30時間から50時間程度の時間外労働と認定しており、いわゆる過労死基準を下回る認定であったにもかかわらず、このような判断がなされている点です。

 

慰謝料額として認定されたのは10万円ですが、このような事例が紛争化すること自体が企業にとっては看過できないものといえます。

 

また、厚労省策定の脳・心臓疾患の労災認定基準が改正され、複数月平均80時間超のみならず、「これに近い時間外労働」の場合にも一定の負荷要因が加われば業務災害と認定されることとされました。

業務災害と認定される範囲が広がったことになりますので、今後、過労死事案での業務災害肯定例が増え、労災民事訴訟に発展するケースも増加することが見込まれます。

 

このような状況を踏まえれば、労働基準法の時間外規制を遵守すれば足りるわけではないため、従業員の健康管理や労働時間管理を今一度見直しておくことは、企業にとって急務といえます。

 

(3)旅費等の不正受給事案

従業員による旅費等の不正受給事案は、どの企業でも発生するリスクがあります。

 

このような事案では、企業が懲戒解雇に踏み切ることも多いです。旅費等の不正受給は、刑法上の犯罪に該当しますので、このような企業の判断も決して不合理なものではありませんし、懲戒解雇が有効と判断される事例も多いです。

 

しかしながら、最近の裁判例で合計100回にわたり、社用車で出張先に赴きながら公共交通機関を利用したものと虚偽の申請等をし、約50万円もの利益を不正に得ていたという事案で懲戒解雇が無効と判断されました(札幌高判令和3年11月17日労判1267号74頁)。

 

このような判断がされた理由として、同種の不正受給をしていた従業員も10名程おり、これらの者には停職、または減給の懲戒処分が行われたこととの処分の均衡、企業の旅費支給事務に杜撰な面があったことなどが挙げられています。

 

上記のように、本来であれば懲戒解雇相当の事案でも、処分の均衡(特に過去の処分事例は重要視されます。)や企業内での管理体制が理由で無効と判断されることもあります。

 

懲戒解雇が無効と判断されてしまうと、解雇時から復職に至るまでの賃金請求権(いわゆるバックペイ)が認められてしまいます。

訴訟等に要する弁護士費用なども考えれば、企業に生じる経済的損失は決して小さくありません。企業内の不祥事は、その対応につき判断を誤るとかえって経済的損失を広げてしまうリスクをはらんでいますので注意が必要です。

 

旅費等の不正受給事案は、いわゆる『コンプライアンス違反』とは趣を異にしますが、処分の均衡や企業内での不十分な管理体制を理由に適切な処分を下すことができなくなることの参考になる事例ですのでご紹介しました。

3. 対応策

コンプライアンス違反等の企業不祥事を防ぐためには、企業内におけるコンプライアンス体制の整備が必須ですが、中でも内部通報制度は極めて重要です。

 

企業内においてコンプライアンス違反の事象が生じた場合、それが放置されることなく企業内で認知されて自浄作用を働かせることができれば、これによる社会的影響を小さくすることができます。

 

企業における内部通報制度は、まさにこのような自浄作用を働かせるための最後の砦であり、積極的な導入が必要です。

 

令和4年6月から改正公益通報者保護法が施行され、内部通報制度の体制整備義務が企業に課せられているため(※中小企業は努力義務)、法改正対応という意味でも自社の内部通報制度を見直されることをお勧めします。

 

これを機に企業内の通報窓口ではなく、いわゆる外部通報窓口(弁護士、民間企業)を導入することも有益です。

 

また、体制整備とともに、従業員に対する研修を行っていくことも必要不可欠です。

 

コンプライアンス違反が発生した事案の中には、内部通報制度自体はあるもののそれが利用されなかったというケースも多く、第三者委員会等の調査において内部通報制度の見直しが指摘されることも少なくありません。

 

上記の日産自動者無資格者検査事件における外部弁護士による調査報告書の中でも、複数の従業員が内部通報を行わなかった理由として「内部通報をしても是正されないと思った。」と回答していたことが指摘されています。

 

ぜひとも、体制整備と研修実施を車輪の両軸として企業内でのコンプライアンス体制を浸透させていくように努めていただければと思います。


コラム執筆者

柴田 政樹

松田綜合法律事務所 弁護士(東京弁護士会)

労働訴訟(労働者たる地位の確認請求、残業代請求等)、労働審判手続き、団体交渉、企業の労務管理のアドバイス、就業規則の改定等、労働案件を多数担当。

執筆

  • 「合同労組からの団体交渉の申入れがあったら」(日本実業出版社・企業実務2016年1月号)
  • 「退職勧奨を契機として精神疾患等を主張されたら」【共著】(日本法令・ビジネスガイド2017年2月号)
  • 「副業容認で注意すべき企業の民事責任と対応策」【共著】(日本法令・ビジネスガイド2018年10月号)

講演実績

  • 2016年11月 社会福祉法人における労務対策セミナー(神奈川)
  • 2017年2月 企業における労働時間リスク対応セミナー(東京)
  • 2018年5月 労働訴訟を踏まえた労務対策セミナー(神奈川)
  • 2018年10月 医療機関向け労働時間リスク対応セミナー(広島)
  • 2018年12月 働き方改革対応セミナー(東京)
  • 2019年2月 労基署対応セミナー(千葉)
  • 2019年2月 働き方対応書式セミナー(大阪)

(その他多数の労務セミナーを担当)

3,597社以上の
オンライン研修で使用されている
3,500コースの一部が
1ヶ月間無料で受け放題!

今すぐ資料請求・お問い合わせください!