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働き方改革を踏まえた労務管理の再チェック③ ~働き方改革関連法に対応した健康管理~

2020年09月23日


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第3回は、働き方改革関連法を踏まえた健康管理のポイントを取り上げます。

労働安全衛生法では、労働者の安全・健康を確保するため、労働者の安全と衛生に関する基準を定めています。今回の法改正では、健康被害の発生防止を目的に、労働時間状況把握義務の明文化、医師による面接指導の範囲拡大、産業医・産業保健機能の強化、心身の状態に関する情報(以下、「健康情報」といいます。)の取扱いに関する改正が行われましたので、主要な点についてご説明します。

労働時間状況把握義務の明文化

労働者の労働時間の把握は使用者の責務とされておりましたが、これを正面から定めた法律はありませんでした。今回の法改正により、労働安全衛生法で、使用者は労働者の労働時間の状況把握をしなければならないとされ、労働時間状況把握義務が明文化されました。

この労働時間状況把握義務の対象労働者には、管理監督者も含まれますので注意が必要です。管理監督者というと、出退勤の裁量が広くあり、通常の労働者とは区別されることを理由に、何ら労働時間の把握をしていないケースも多いかと思いますが、そのような状況であれば、労働時間状況把握義務を怠っているという法令違反が認められてしまいます。この点は、誤解をされている方も多いため、十分に気を付けて下さい。

労働時間管理が杜撰である事業場で長時間労働を理由とした健康被害が発生した場合、労働時間状況把握義務に違反していることが、使用者の安全配慮義務違反を肯定する一事情として扱われることになりますので、これまで以上に労働時間の把握に力を入れる必要があります。

医師による面接指導

医師による面接指導とは、長時間労働により疲労が蓄積し、健康被害発生のリスクが高まった労働者について、その健康状態に応じて本人に対する指導と措置を講じるものです。今回の法改正により、医師による面接指導の対象労働者を、1週間あたり40時間を超えて労働した時間(以下、「週40時間超時間数」といいます。)が1か月あたり80時間を超えた場合とされていました(従前は、100時間を超えた場合とされていましたので、この点で対象労働者の範囲が拡張されています。)。
第2回でご説明した通り、長時間労働の是正のために時間外労働の上限付き罰則規定(複数月平均で80時間以内)が設けられており、そちらと平仄を合わせる改正といえます。

また、週40時間超時間数が1か月あたり80時間を超えた労働者に対して、使用者がその旨を通知することが義務づけられています。この通知により、労働者が医師による面接指導の申出をすることを促そうという趣旨の改正です。この通知義務に違反したことを理由とする刑事罰は設けられていないのですが、この点も、健康被害が発生した場合の使用者の責任(安全配慮義務違反の損害賠償責任)を肯定する一事情となり得ますので、注意が必要です。

健康情報取扱規程の策定

改正法により、健康情報の適正管理のための必要な措置を講じることが使用者の義務とされました。このような法改正が行われた趣旨は、健康情報の適切な管理を担保することで、医師による面接指導等を労働者が利用しやすい環境を作る点にあります。

法律上は、「必要な措置」としか規定がないのですが、厚労省作成の指針において、この措置の具体的内容として取扱規程の策定が挙げられております。

取扱規程を定めることで、使用者側において、どのような管理が必要かを改めて認識するきっかけになりますので、法的義務を果たすという以上の価値があるものと考えます。現時点でも取扱規程を策定していないのであれば、早急に策定をされることをお勧めします。

最後に

今回の法改正により、使用者に新たな義務が課されましたが、これは手段であって、その目的は健康被害発生の防止です。健康被害の発生は、労働者の心身に重大な支障を生じさせ、又は最終的には命が喪われてしまうなど、労働者やその家族にとって取り返しのつかない事態になることがあります。

使用者としては、単に法令を遵守すれば足りるという意識ではなく、健康被害発生防止のために如何なる措置を講じることが当該事業場において必要であるかを、より積極的に考え実施していく必要があります。このような使用者の努力により、安心して働ける職場環境が整備できれば、労働者の信頼の確保・労働者のモチベーションアップ・人材定着・優秀な人材の確保・対外的な信頼の向上等が見込めます。

働き方改革関連法対応を踏まえた労務管理の再チェックをきっかけに、労働者の健康管理について見直す良い機会としていただければと思います。


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コラム執筆者

柴田 政樹

松田綜合法律事務所 弁護士(東京弁護士会)

労働訴訟(労働者たる地位の確認請求、残業代請求等)、労働審判手続き、団体交渉、企業の労務管理のアドバイス、就業規則の改定等、労働案件を多数担当。

 

執筆

  • 「合同労組からの団体交渉の申入れがあったら」(日本実業出版社・企業実務2016年1月号)
  • 「退職勧奨を契機として精神疾患等を主張されたら」【共著】(日本法令・ビジネスガイド2017年2月号)
  • 「副業容認で注意すべき企業の民事責任と対応策」【共著】(日本法令・ビジネスガイド2018年10月号)

講演実績
▼企業向け

  • 2017年2月 企業における労働時間リスク対応セミナー(東京)
  • 2018年5月 労働訴訟を踏まえた労務対策セミナー(神奈川)
  • 2018年12月 働き方改革対応セミナー(東京)
  • 2019年2月 労基署対応セミナー(千葉)
  • 2020年7月「ワークスタイル変革の推進!コロナ禍で広がるテレワーク本格導入の注意点と規程例」(東京)

▼社会福祉法人向け

  • 2022年1月 福祉現場におけるハラスメント対応の実務(東京)※東京都社会福祉協議会
  • 2022年8月 福祉現場におけるハラスメント対応の実務(北海道)※北海道救護施設協議会
  • 2023年1月 「法人と職員を守る!利用者・家族からのカスタマーハラスメントへの対応」(東京)※社会福祉法人練馬区社会福祉事業団
  • 2023年11月 「介護現場で想定されるトラブルと4つの対策ポイント~利用者・家族・職員のより良い関係構築のために~」 (東京)※株式会社クーリエ(みんなの介護アワード2023)

▼松田綜合法律事務所主催(人事労務セミナー2022)

  • 2022年1月 「改正公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度見直しの実務」
  • 2022年4月 「法的リスクを踏まえた労働時間管理の実務」
  • 2022年9月 「フリーランス・業務委託活用の法的留意点と実務」

 

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