「静かなる退職」とエンゲージメント低下──つながりを取り戻すジョブ・クラフティング
2025年08月14日
最終更新日:2025年10月03日
「静かなる退職」の現状
近年、「静かなる退職(Quiet Quitting)」という言葉が注目を集めています。これは、静かに退職届を出すことを意味しているわけではありません。職場に所属し続けながらも、自ら進んで責任を引き受けたり、プラスαの働きをすることを避け、最低限の業務だけを淡々とこなす状態を指します。退職のように目に見える行動を取るわけではないため“静か”ですが、実質的には職場へのエンゲージメントが失われた状態とも言えます。
この言葉が注目を集めるようになったのは2022年、アメリカでキャリアコーチがSNSに投稿した動画がきっかけでした。「仕事は人生のすべてではない」「自分の時間を大切にしたい」と語られ、多くの共感を呼びました。とりわけミレニアル世代やZ世代を中心に、仕事と距離を取ることが新たな生存戦略として認識されつつあります。求められる期待水準・パフォーマンス基準を超えているのであれば、自分の時間とエネルギーのすべてを会社に捧げる働き方のアンチテーゼとして、一概に否定されるべき生き方・働き方ではありません。
広がる静かなる“エンゲージメント低下”の波
では、この「静かなる退職」は実際にどの程度広がっているのでしょうか。定義が調査によってバラバラなので何とも言えないですが、2つの調査結果を示します。米調査会社ギャラップ「State of the Global Workplace 2023」によると、日本のビジネスパーソンでは「エンゲージしていない(静かなる退職)」割合が72%となっています。実に7割強のビジネスパーソンが仕事に熱意を持っていない状態にあるのです。ちなみに、OECD平均は64%、全世界平均は59%です。
さらに、マイナビの調査(2024年実施)では、「静かなる退職」に該当すると自覚している正社員が44.5%にのぼります。年代別で見ると、20代で約47%、続いて50代では45.6%とほぼ2人に1人が仕事に“必要以上”の力を注いでいないと答えており、静かなるエンゲージメント低下が進んでいることが分かります。
予防のカギは「つながり(意味づけ)」
「静かなる退職」を予防するキーワードは、「つながり」なのではないかと考えています。仕事と何かがつながっている感覚です。「意味づけ」と言い換えても構いません。人はどういう時に当事者意識や主体性を持って働くことができるのか?
ここでは、「内発的動機付け」の研究で有名なエドワード・デシが提唱した「自己決定理論」をベースに、私の考えを加え説明していきます。当事者意識・主体性を高める仕事には以下の4つの要素が関係しています。
1. 目的/purpose:何のためにやっているのか?誰のためにやっているのか?を腹落ちし
ている仕事
2. 成長/growth:成長している実感を持てる仕事
3. 自律/autonomy:(一部でもいいので)自分で決められる/自分なりの工夫ができる仕事
4. 自分らしさ/authenticity:自分の強み・持ち味・価値観を活かせる仕事
以上の4要素のいずれかを実感できる仕事が人のエンゲージメントを高める。①自分の目的・目標、②自分の成長、③自己決定感、④自分らしさ、と今の仕事が「つながっている(意味づけられている)感覚」が、当事者意識・主体性を高めているのです。
エンゲージメント向上策としての「ジョブ・クラフティング」
具体的な対処法として注目されているアプローチが、「ジョブ・クラフティング(Job Crafting)」です。この概念は、2001年にアメリカの組織心理学者 レズネスキーとダットンによって提唱され、2010年代半ば以降ビジネスシーンでも注目を集めています。ひと言で言えば、「仕事に自分らしさをひと味加える方法」です。この手法は、①成長を促進する、②エンゲージメントを高める、③メンタルヘルスを改善するなどの効果が実証されています。
セミナーでは、ジョブ・クラフティングとは何か?実際どのように進めていくのか?についてお話ししていきたいと思います。「やる気がない」のではなく、「心が離れている」。この違いに目を向け、仕事との「つながり(意味づけ)」を実感してもらうことを通して、“働く意味”を取り戻すきっかけになるかもしれません。
セミナー詳細
| セミナータイトル | 自分の仕事に“意味”を見出す技術 〜ジョブ・クラフティング入門〜 |
|---|---|
| 時間 | 約40分 |
| 料金 | 無料 |
| 特別セミナー講師 | 長谷川 岳雄 氏 (株式会社みらいへ 代表取締役/明星大学経営学部 客員教授) |
| 受講形式 | 2025年9月17日に開催したセミナーの内容を録画したオンデマンド配信です。 |
| 定員 | 1社5名まで |
\★オンデマンド配信視聴のお申込みはこちら★/
必要事項をご入力の上、お申込みください。(法人企業1社5名まで)
■お問い合わせ
リスクモンスター株式会社 教育サービス課(セミナー事務局)
電話番号:03-6214-0351
メールアドレス:support-cbx@riskmonster.co.jp
(参考資料)
[1] ギャラップ「2023年版 ギャラップ職場の従業員 意識調査:日本の職場の現状」
[2] GALLUP, State of the Global Workplace 2023 Report
[3] マイナビ「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250422_95153/(2025.8.7閲覧)
コラム執筆者
明星大学 経営学部 客員教授/株式会社みらいへ 代表取締役
1991年早稲田大学商学部卒業、2004年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科国際経営学専攻修了。
経営学修士(MBA)、キャリアコンサルタント(国家資格)、MBTI認定ユーザー
1991年オリックス株式会社入社。法人金融サービス部門の営業に従事。その後、大学院修士課程を経て、人事部にて勤務。新卒採用、研修の企画・運営、人事制度・評価報酬制度の企画・運営を担当する部署の責任者を歴任。2013年に独立し、(株)みらいへ設立。大学教員・企業研修講師として活動。リーダーシップ、キャリア開発を主なテーマに大学教員・企業研修講師として活動。三重大学特任教授、明星大学経営学部特任教授を経て現職。