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ジョブ型雇用導入による解雇規制への影響

2023年01月23日

 

1.はじめに

ここ数年で「ジョブ型雇用」がメディアで取り上げられるようになり、その認知度は高まり、導入を積極的に考え始めている企業も増えていると思います。
コロナ禍でテレワークや在宅勤務が定着し始めたことで、管理職側が労働者の勤務状況を細かく把握しにくくなったことも、「ジョブ型雇用」が注目される要因になっているようです。

 

ただ、この「ジョブ型雇用」という言葉が独り歩きをし、あたかも労務案件における法的課題を解消する特効薬のように誤解されている面もあります。
日本では、労働者を解雇する場合には極めて高いハードルがありますが、「ジョブ型雇用」であれば解雇をより緩やかに行うことができるようになるという誤解も生じているようです。

 

そこで、今回は、「ジョブ型雇用」とは何かを改めて捉え直し、その導入が解雇規制(特に、能力不足解雇)に与える影響に絞ってご説明します。

 

2.「ジョブ型雇用」

(1) 定義

「ジョブ型雇用」の法令上の定義はありませんが、一般的には、職種及び職務内容(ジョブ)を明確かつ詳細に特定した上で、労働者はそのジョブの範囲内で労務提供義務を負い、企業はジョブに応じた賃金を支払う雇用契約をいうとされています。雇用契約の内容が、
ジョブという枠組みの中で限定されます。

 

これに対し、日本での伝統的な雇用形態は、新卒一括採用を行った上で、企業内での人事異動を繰り返しながら労働者の熟練度や能力を高めつつ定年までの長期的な雇用を行うものであり、「メンバーシップ型雇用」とされます。「ジョブ型雇用」のような限定はないため、企業には人事異動(職種変更、職務内容変更、配置転換、転勤等)に関する裁量が広く認められます。

 

「メンバーシップ型雇用」が、いわば「人」に適した「仕事」を割り振るという「採用ありき」の考え方であるとすると、「ジョブ型雇用」は「仕事」に適した「人」を採用するという「仕事ありき」の考え方です。両者は、人材活用の仕組みに根本的な違いがあるといえます。

 

(2) 解雇規制への影響

能力不足の解雇事案の場合、解雇の有効性判断にあたっては、主として、以下3点が問題になります。

①当該労働者に期待され求められた能力は何か

②当該能力不足の事実の有無

③改善の機会(人事異動を含む)を与えたこと

 

上記の通り、「ジョブ型雇用」は、雇用契約締結の時点で職種及び職務内容(ジョブ)を明確かつ詳細に特定しているため上記①は問題になり難く、また、職種や職務内容が限定されていますので、当該職種や職務内容との関係で能力不足の有無や適正不足の有無を判断すれば足り、他の職種や職務内容への変更までを考慮に入れること(人事異動を行うこと)は必須とはいえないため、上記③も問題になり難いといえます。

実際の裁判例でも、職種や職務内容が特定されていることを踏まえて、解雇が有効と判断された例は複数あります(フォード自動事件(東京高判昭和59年3月30日労判437号41頁)、コンチネンタル・オートモーティブ事件(東京高判平成28年7月7日労判1151号60頁)など)。

 

もっとも、実際の紛争の現場では、②能力不足の事実の有無が問題になることも多いです。これは、「能力不足」が評価を含む事実であるため事実の有無を明確にしにくい性質があること、紛争に発展した場合にはその評価を当該職種や職務内容に精通をしていない第三者(裁判官、労働者側代理人等)が「能力不足」の有無を判断せざるを得ないことが理由として挙げられます。「ジョブ型雇用」であっても、直ちに、②の主張立証が容易になるとはいえません。

 

また、「ジョブ型雇用」の場合に①③が問題になりにくいとはいえ、職種や職務内容の特定がなされていたといえるか否か、その具体的内容そのものが争点になることも珍しくはありません。ある裁判例では、高度の専門職として採用された者について、解雇前の段階で別の職務を提供して雇用を継続しようとする提案をして交渉を重ねたものの妥協点を見出すなかったことを、解雇の有効性判断の一事情として挙げられています(プラウドフットジャパン事件(東京地判平成12年4月26日労判789号21頁))。

当該裁判例は、労働者の経験値を踏まえた上での判断ではあるのですが、紛争リスクを軽減するためにも、解雇の前段階での丁寧な対応は必要であると考えられます。

 

以上の通りであるため、「ジョブ型雇用」であるからといって容易に解雇をすることができるようになるとはいえません。この点を過度に期待した上で「ジョブ型雇用」導入を考えるということでしたら、それは適切ではありません。

 

3. 終わりに

今回は、「ジョブ型雇用」と解雇規制の関係を説明しましたが、「ジョブ型雇用」が労務案件における法的課題を解消する特効薬とはいえないことは十分にご理解いただきたいと思います。

「ジョブ型雇用」を導入するのであれば、まず、その導入目的をどこに置くのかを決める必要があります。その目的を決めないままに、ジョブ型雇用の表層面(職種や職務内容の限定、職務給の導入、職種と給与額を連動させた賃金体系など)のみを取り入れても、実益の伴わない制度になり下がってしまいます。

 

上記の通り、「メンバーシップ型雇用」と「ジョブ型雇用」とでは、人材活用の仕組みに根本的な違いがあるため、両者の根本的な違いを踏まえ、自社に適した形態を検討すべきです。

 


コラム執筆者

柴田 政樹

松田綜合法律事務所 弁護士(東京弁護士会)

労働訴訟(労働者たる地位の確認請求、残業代請求等)、労働審判手続き、団体交渉、企業の労務管理のアドバイス、就業規則の改定等、労働案件を多数担当。

執筆

  • 「合同労組からの団体交渉の申入れがあったら」(日本実業出版社・企業実務2016年1月号)
  • 「退職勧奨を契機として精神疾患等を主張されたら」【共著】(日本法令・ビジネスガイド2017年2月号)
  • 「副業容認で注意すべき企業の民事責任と対応策」【共著】(日本法令・ビジネスガイド2018年10月号)

講演実績

  • 2016年11月 社会福祉法人における労務対策セミナー(神奈川)
  • 2017年2月 企業における労働時間リスク対応セミナー(東京)
  • 2018年5月 労働訴訟を踏まえた労務対策セミナー(神奈川)
  • 2018年10月 医療機関向け労働時間リスク対応セミナー(広島)
  • 2018年12月 働き方改革対応セミナー(東京)
  • 2019年2月 労基署対応セミナー(千葉)
  • 2019年2月 働き方対応書式セミナー(大阪)

(その他多数の労務セミナーを担当)

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