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人的資本開示の実効性を高めるために必要なこと~人事部門が主導して全社に働きかけるべきこと~

2022年12月14日

人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげていこうとする考え方を「人的資本」と呼びます。
この考え方は、リーマンショック以降、財務諸表で企業を評価するという流れにESG(環境・社会・ガバナンス)評価を加えるトレンドが生まれたことに起因します。

 

本稿では、「人的資本開示の実効性を高めるために必要なこと ~人事部門として取り組むべきこと~」
(2022年11月16日 https://www.cybaxuniv.jp/column/jinji/20221116 以下、本稿では「前項」と表現します)の続編として、人事部門が主導して全社に働きかけていただきたいことをご紹介していきます。

1.従業員の学習機会の創出を!

前項でもご紹介しましたが、企業の人材投資が極端に少ないのが日本です。

加えて、自己啓発に取り組むことも苦手であることがうかがえます。

 

出典:パーソル総合研究所 APAC就業実態・成長意識調査(2019年)

 

上表は、2019年にアジア太平洋地域で「あなたが自分の成長を目的として行っている、勤務先以外での学習や自己啓発活動について」という設問への回答です。

残念ではあるのですが、他国に比して「特に何も行っていない」層が多いという結果になっています。

恐らく、職業人生における自己成長やスキルアップは「学習を通して実現する」というよりも「経験を通して実現する」という感覚の方が多いのも一因なのでしょう。しかし、なぜかこの二者択一になりがちなことに、疑問を持っていただきたいのです。

 

職業人としての成長は「学習」と「経験」の両輪によってもたらされるのが基本です。

そのため「経験」のみに頼らず「学習」も取り入れるために、人事部門として当然、自己啓発を積極的に取り組むように全社に奨励することも大事ですし、「経験」による成長を実感できるような組織風土を創出していくことも大事です。

 

 

上図は職場内教育の繋がりを図示したものです。

仕事は「知っている」ことを使って様々な判断をしながら成果を目指していきます。

この「知る」を実現するルートが、図の左側からの学びである「学習」と、右側からの学びである「経験」です。

改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)においても、「過大な要求」として、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことに対し厳しく叱責することは、厚生労働省が発表している指針においてパワハラに該当するとされています。

 

パワハラに該当しないようにするためだけではなく、従業員が職務上で成果を出すために必要な知識習得やスキルアップを実現できる機会を提供することは、組織として当たり前に行う施策です。この当たり前が人的資本という考え方においても「投資」に値する施策になるのです。

職業人として経験と学習の両輪で何かを「学ぶ」という意識付けを、各職場、各管理職任せにすることなく、人事施策を通して全社に対してメッセージを出していただきたいと思います。

2.短期的な成果に傾斜しすぎない部署運営を評価する施策を!

「学習」と「経験」で学ぶことを上記「1.従業員の学習機会の創出を!」でご紹介しましたが、「経験≒短期的な成果」という発想では「誤った成果主義」ともいうべき職場風土に繋がります。

 

短期的な業績を追求する組織風土が強まると、どうしても管理職のジョブアサインが「各メンバーが出来そうな仕事」に傾斜していきます。それは、確実性、再現性が低い業務を各メンバーに与えることは成果が不確実になると、管理職が認識するからです。

そして、チームとして期待されている成果に対して、各メンバーに与えた役割だけで不足する部分を、管理職自身が奮闘することでカバーする構図が生まれます。

これでは、チーム内の誰もがストレッチ目標に挑戦していないことになります。

腹筋3回出来る人が毎日3回の腹筋を行っていても、3回分の筋力が身につくだけであるのと同じで、今できる仕事を繰り返し行っていてもスキルアップは起こりません。

 

経営者や人事部門の責任者の方とお話しさせていただく際に、よく出てくるお悩みがここにあります。多くの企業において、自社としての戦い方、経営計画をやりきるためのゲームプランが、現状の自社のビジネスモデルに落とし込まれています。

どうしても、このモデルに「人材」をあてはめ、定義されている業務、役割を遂行することだけを求める構図になり、安定的に成果を出せる人材ほど成長が停滞する、前述の腹筋3回の例のようになってしまうのです。

これでは、従業員個人に与えられる役割が固定化してしまい、人的資本に投資して成長を促進するような機会提供には繋がりません。

 

安定的な成果を求めることが是である職務も当然あります。そういう場合は

 ・他部門との連携で何かできないか

 ・上席の職務の一部を分けることができないか

 ・プロジェクトなど新たな役割を創ることができないか

上記の3点を検討することで、挑戦できる職務を創出できると言われています。

人事部門が「知恵袋」として「チャレンジングな職務」を創出することを全社に奨励してください。

加えて、「短期的に成果を出す」と「人材育成」の両立を、管理職を中心としたリーダー層に徹底できるか、

また、両立できているリーダーを評価する仕組みが整っているかを是非検証していただきたいと思います。

3. 従業員は「家族」ではなく「投資家」という位置づけに転換を!

「昔のように新卒入社した会社に定年まで勤め上げることに美徳があるかというと、今はね…」というような感覚をお持ちの方も多いのではないでしょうか。この感覚の違いも「人的資本」と捉え直してみると解が浮かんできます。

 

「投資」という観点で言えば、企業側だけが価値向上のために行っているのではなく、人材側である従業員も個人としての市場価値を高めるために時間と労力を就業先に投資しています。当然、投資効果が低いと判断されれば離職に繋がるでしょう。特に最近は「タイム・パフォーマンス」が重視される時代です。「この会社に長く勤めてもメリットが無い」と考えれば、早く辞めた方が良いのです。

しかし、この事象を「最近の若い者は我慢が足りない!」のようなイメージで捉えている年長者の方もいらっしゃると思います。

 

出典:株式会社マイナビ 新入社員の意識調査 調査期間:2022年6月17日(金)~6月20日(月)

 

上図は、各年度の新入社員の勤続意向年数に関する調査ですが、2022年度の新入社員では約半数が10年以内での退職を考えており、3割弱は3年以内となっています。この判断が現在「働きがい」を感じているかどうかで大きく異なることも特徴的です。

 

出典:株式会社マイナビ 新入社員の意識調査 調査期間:2022年6月17日(金)~6月20日(月)

 

現在の職場で働きがいを感じていない層は「1年未満に退職意向」が約3割、「3年以内に退職意向」が6割超という結果になっています。

では、この「働きがい」は、どのような場面で感じるのでしょうか…その解答が下図になります。

 

出典:株式会社マイナビ 新入社員の意識調査 調査期間:2022年6月17日(金)~6月20日(月)

 

今の職場に働きがいを感じている層ほど各項目に敏感であること、成長実感と貢献感覚が、働きがいがある層の上位2項目になっていることが表れています。

この成長実感と貢献感覚は、前項で紹介した新入社員研修受講者へのアンケート、「仕事をする上で重視したいと思っていること」という問いの結果でも上位2項目です。

 

この結果からも、従業員は時間と労力を会社・職場に「投資」しており、企業側はその対価を「成長実感」と「貢献感覚」で提供することが大事なのは明らかです。労働の対価は「地位」と「金銭的報酬」だけではないのです。

 

採用したらこっちのもの、釣った魚に餌はやらないという考え方では、人材の定着は望めません。

自社に属してくれている人材も、時間と労力を組織や仕事に「費やしてくれている」≒「投資してくれている」と考えた方が、今の時代には合っているのではないでしょうか。

投資に見合わないリターンと判断すれば、

「より望ましいリターンを貰えそうな会社に投資先を変更する」≒「転職する」と考えるのは当たり前なのです。

自社の人材に投資して価値を高めるという人的資本という考え方は、裏を返せば人材(自社従業員)から「投資に見合う組織」と認められるように変わることも意味するのです。それは、人事部門だけの課題ではございません。

構成員全員の協力なしには実現できませんので、是非全社に働きかけていただきたいと思います。

 

 


コラム執筆者

松本 治
松本 治
SAP 代表
株式会社マイナビの19年間の在職中に約3,000社の人材採用・教育コンサルティングと、約5万名の求職者へのサポートに携わる。
その中で芽生えた雇う側も雇われる側もWin-Winの関係になるため、良き伴走者でありたいという想いをもとに人事コンサルタント・キャリア教育プランナーとして独立。
現 大阪工業大学工学部生命工学科客員教授。

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