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人的資本開示の実効性を高めるために必要なこと ~人事部門として取り組むべきこと~

2022年11月16日

人的資本とは、経済活動の基となる生産3要素の中のひとつ「ヒト」が持つ能力を資本としてとらえた考え方で、従業員個人が身につけている技能・技術・資格・スキル・能力等のことを指します。
2018年にISO30414が策定されて以降、欧米を中心とした無形資産の中の代表格であった「人的資本」に関する情報公開のトレンドが、今年、急速に人事領域に「黒船」が襲来しているように広まってきています。

 

この「黒船」を、なぜ難題のように捉えてしまうのでしょうか。
本来企業は、下図にあるような各資本が相互にどう関係し、影響を与え合いながら市場と向き合っていくかを考え、活動し、経営しています。

 

 

新卒一括採用という特徴を持つ日本型の企業であればなおさら、上図の6つの資本は当たり前に捉えている筈です。でも、どこかで何らかの難しさを感じてしまうのです。

 

このコラムでは、この難しさの解消に向けて人事部門として「まず」取り組んでいただきたいことを記していきます。実務の参考になさってください。

1.経営計画と人事戦略の連動性

私仕事柄、経営者とお話しさせていただく機会があります。

特にご相談をお受けする際に、「3年後には売上を〇倍にしたい」や「シェアを〇倍にしたい」というお話をいただくのですが、一定の割合で「気合だけ」「願望だけ」でお話しされている経営者がいるように感じることがあります。

仮に売上を〇倍にするのであれば、営業スタッフの人数も〇倍にする等、何らかのテコ入れが無いと実現可能性が高いシナリオではありません。

 

昭和から平成の間にビジネス・パーソンとして育ってきた方々が、無意識に陥る罠がここにあります。「ヒトは勝手に育つ」と考えてしまうのです。

働き方改革で就業時間も減少傾向(2013年と2020年の比較で9%減(総務省「労働力調査」より)ですから、「経験を通して学ぶ」の総量が間違いなく減っています。

特に経験学習において重要な失敗経験も、バブル崩壊後は意図的にミスをさせる余裕が現場にありません。「一皮むける経験」や「修羅場」を味わう機会も無くなってしまっているのが現状ではないでしょうか。

そう考えれば、「必然的に育成」しない限り「偶然、成長する」ことはあり得ません。偶然に期待するのは、「経営」と考えるとあまりに無責任と言えるでしょう。

 

この感覚が、経営計画と人事戦略の整合性を奪う最大の理由です。

経営計画を着実に実現していくためには、成果に対して従業員の持つ「強み」を発揮してもらうことが必要です。もし必要な「強み」を持っていなければ、他から仕入れる(学ぶ・教えてもらう)等、従業員自身が獲得すること、もしくは企業が獲得機会を「提供」することが必要です。

 

本来、人材育成は、経営計画が必要とする成果に対して行うのが基本です。偶然育つのを待つのではなく、必然で育てなければなりません。だからこそ、人的資本開示というアクションが、持続的な企業価値向上の実現に繋がるためには、経営計画と人事戦略が一つのストーリーのように連動することが大事なのです。

 

 

本来、人事部門が取り組む各計画は、全て経営と関係する筈です。また、人材を採用して育成するのも、プロスポーツの球団と同じで「戦力強化」がメイン・ミッションです。

戦力強化の目的は、採用した人材を「資源」として消費することではなく、経験や学習で価値を高め、継続的に社会や世間、顧客が期待する成果を出し続けてもらうことです。

このサイクルを、建前ではなく実現可能性をベースに言語化することが大事であり、必然で人材育成を考える組織でないと、言語化が「難題」になるのです。

 

可能であれば、数字にしっかりと落とし込むことをお勧めします。

数字に落とし込むことで、人的資本に対する投資が、経営指標との関係においてどのように影響するのかを確認することができるようになります。

影響の例で言えば、最近の研究では、ワーク・エンゲイジメント(仕事に関連するポジティブで充実した心理状態)と生産性には相関があることが明らかになっています。また、心理的安全性と業績も正の相関があることが分かっています。

 

人的資本への投資が経営指標にどう影響するかが数字で示せる状態になると、他の投資項目との比較可能性も高まります。例えば、1億円のキャッシュが投資に廻せると経営陣が判断したとすると、「設備や機械に投資するか、人件費に投資するか」の合理的判断が出来るようになるからです。

2.人事戦略が従業員とのWin-Winの関係構築に影響するか

人的資本という考え方のベースは、人材を「人的資源(Human Resource)」として「コスト管理の対象」と捉えるのではなく、「人的資本(Human Capital)」として「投資すべきもの・価値創造の源」と捉え直すべきという考え方にあります。

この認識を、いかにポジティブに従業員に捉えてもらえるかも大事になるのです。

 

日本の雇用文化は、どこかで雇用主が「上」で従業員が「下」という雰囲気になりがちです。

この上下感覚を放置していると、前述の心理的安全性が脅かされたり、ハラスメントの温床になったりと、現代社会においては企業にも従業員にも何の価値も生み出さない状態になります。

そうならないためにも、人的資本経営への取り組みが、企業と従業員、雇用主と雇用者にもメリットがあるという認識を拡げていく必要があります。

 

 

上図は、今年5月に経済産業省が発表した「未来人材ビジョン」というレポートにあるデータです。

他国に比べて人材投資が低く、自己啓発に取り組む人も少ない…これが日本の現状です。

企業と従業員、雇用主と雇用者双方が「損したくない=無駄なことはしたくない」という感覚で握手できている関係になっています。

この空気感を変えていかない限り、人事部門がいくら積極的に旗を振っても、徒労に終わり、実効性の上がらない施策になってしまうのではないでしょうか。

3. まとめ

先ほどご紹介した「未来人材ビジョン」で、実は人的資本経営に関しても触れています。

 

 

上図左端の「人材投資」、投資家と企業で認識の誤差が大きいのが分かります。

「人材投資」ですから、企業(組織)の側が積極的に働きかけることが求められているのです。

よく「優秀な人材を採用できない」という嘆きの声を聞くのですが、人的資本という考え方から言えば、まずは投資して優秀な人材を育成する方が先なのかもしれません。

 

 

このコラムでは、上図の「START」の位置…「まず」取り組んでいただきたいことをまとめてきました。

残念ながら、ここがスタートになります。G-PDCAサイクルのように、ストーリーを描いた後、強化施策(人材要件など)を特定し、その効果検証をしながら継続的に進めていくイメージになります。

この継続過程で、人的資本に関するアクションを起こす前後で採用活動が変わってくる、特に求職者のリアクション(母集団)が変わったというケースが多いのが実情です。なぜなら、人的資本に関する情報を採用情報に転化していくからです。

 

 

上図は新入社員研修受講者が回答しているアンケートで、「仕事をする上で重視したいと思っていること」という問いの結果です。

最近の傾向として「成長」と「貢献」が上位を占める傾向が続いています。人的資本への投資で「成長」を促進することが、社会や顧客への「貢献」に繋がり経営に寄与しますから、採用コンテンツとしては最適です。

「釣った魚に餌はやらない」という採用観、人材観では、人的資本という考え方にはいつまで経っても追いつかないのは明白ですよね。

 

以上が人的資本開示の実効性を高めるために人事部門として「まず」取り組むべきことです。

本コラムが皆様の一助となることを願っています。

 

 


コラム執筆者

松本 治
松本 治
SAP 代表
株式会社マイナビの19年間の在職中に約3,000社の人材採用・教育コンサルティングと、約5万名の求職者へのサポートに携わる。
その中で芽生えた雇う側も雇われる側もWin-Winの関係になるため、良き伴走者でありたいという想いをもとに人事コンサルタント・キャリア教育プランナーとして独立。
現 大阪工業大学工学部生命工学科客員教授。

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