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企業によるメンタルヘルス実務対応のあらまし

2022年01月25日


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企業において、メンタルヘルス対策の必要性はすでに広く認識されているところかと思います。直近の新型コロナによる影響はもちろんのこと、複雑化、多様化する社会の中で、メンタルヘルスの問題は、今後ますます重要になっていくものと思われます。

 

従業員がメンタルヘルスを害してしまった場合、貴重な戦力を失い人員計画が影響を受けるだけでなく、労災の問題や、対応を誤ること等による事後の紛争リスク、他の従業員への影響など、企業には多大な影響が生じます。このことからも、メンタルヘルス対応は重要です。

 

法的には、企業が従業員のメンタルヘルスに対応する必要があるのは、企業は従業員に対して安全配慮義務(労働者が労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するように配慮する義務)を負っているからです。この安全配慮義務を尽くすことが、メンタルヘルス実務対応の内容です。

 

しかし、メンタルヘルス不調は、いわゆる体の病気と異なり、発症の原因や疾病の程度が分かりづらく、そのため、この安全配慮義務を尽くすために、何をどこまで行っていけばよいのかが分かりにくいという特徴があります。そのため、取り組みにくい分野の一つであることでしょう。

 

本コラムでは、企業によるメンタルヘルスの実務対応の項目を概観します。ご覧いただくと、労務管理の基本的な対応がメンタルヘルス対応に共通する部分もあること、メンタルヘルス対応に特有の点は何か、といったことがお分かりいただけるかと思います。

1.事前の体制整備

メンタルヘルス対応においても、他の人事労務実務と同様に、事前の体制整備は欠かせません。

 

(1)就業規則の整備
従業員がメンタルヘルスを害してしまった場合の対応についても、就業規則上のルールが必要となります。定めておくべき項目としては、休職制度に加え、精神的不調が疑われるときの受診命令、復職時のルール、退職のルールなどです。実際の使い勝手を考えて十分に作りこみを行っておく必要があります。

 

(2)連携可能な医師の確保
先述の通り、メンタルヘルス不調の特徴として、発症の原因や疾病の程度が分かりづらいという特徴があります。実務においても、同じ患者を近接した時期に診察した複数の精神科医の発行する診断書の記載がバラバラの内容であることはよく見られます。従業員の主治医のほかに、企業が相談したり受診命令の際の指定医師とすることができるような医師のつてを確保しておくことは、比較的優先順位の高い事項と言えます。

 

(3)ストレスチェックの制度設計
従業員50人以上の事業場ではストレスチェックの実施が義務となっていますが、せっかく行ったストレスチェックの結果を職場のメンタルヘルス対策に活用できるよう制度設計をしておかない手はありません。ただし、ストレスチェックの個人ごとの結果は機微な個人情報ですので、情報活用の制度設計に当たっては、個人情報の保護に配慮した適法な制度となるよう、専門家の助言が必要です。

 

(4)その他
その他、部下のメンタルヘルス対応に関する管理職研修や、カウンセラー等による相談窓口の設置なども、有効な対策となります。

 

2.日常実務の中での対応

日常の実務の中においても、メンタルヘルスの予防や早期発見につなげるという視点をもって運用を行っていくことがポイントです。

 

(1)労働時間管理
精神的不調に関する厚労省の労災認定基準(「心理的負荷による精神障害の認定基準について」)においても、発症前後の長時間労働の有無を考慮に入れていることからもわかるように、長時間労働は、しばしばメンタルヘルスを害する引き金となります。恒常的な長時間労働や短期であっても極端な長時間労働が生じないよう、労働時間を管理することは、メンタルヘルス対策としても重要です。

 

(2)ハラスメント対策
職場におけるセクハラ・パワハラ・カスハラ等を理由として従業員がメンタルヘルス不調を生じた場合、企業は安全配慮義務違反の責任を負うことになります。2022年4月に完全施行となる、いわゆるパワハラ防止法の定めるパワーハラスメント防止措置を行うことは、メンタルヘルス対策にもつながります。

 

(3)勤怠管理
メンタルヘルス不調の分かりやすい兆しとして、遅刻や欠勤などの勤怠の乱れは重要な指標となります。適切な勤怠管理を、メンタルヘルス不調者の早期発見につなげるという心構えも重要です。

 

(4)問題社員対応
問題行動やローパフォーマンスなどのいわゆる問題社員には、メンタルヘルス不調が隠れていることがあります。企業としてはメンタルヘルスの不調に気が付くべきであったのに見逃して適切な対応を取らないと、安全配慮義務違反を問われることがあります。そのため問題社員対応は、企業秩序維持すなわち当該従業員の責任を問うという観点に加え、メンタルヘルス対策すなわち当該従業員の生命身体の保護という観点も同時に念頭に置く必要があります。この2つの相反するとも思える要請をどのように両立し又は使い分けていくか、過去の裁判例等を念頭に、慎重な検討を要します。

 

3.不調者発生時の対応

メンタルヘルスを害した従業員が現れてしまった場合には、事前に整備した体制をフル活用して対応していきます。

 

(1)休職命令の発令
就業規則の休職に関する規程や医師との連携を活用しながら、適切なタイミングで休職命令を発令します。従業員の不調が悪化しないよう休ませることも安全配慮義務の一内容である一方、必要性の認められない休職命令は賃金請求等の形で事後の紛争となり得ますので、休職命令の要否とタイミングについても、医師や弁護士等と連携しながらの見極めが必要です。

 

(2)復職の対応
復職についても、タイミングの見極め、リハビリ勤務の適否、復職後の配置、職務内容、職務軽減その他の配慮の要否など、検討を要する事項があります。復職後、再度不調に陥ってしまうこともありますが、そのような場合も、事前に策定した就業規則を活用して対応していきます。

 

(3)退職等の対応
休職期間が満了したにもかかわらず、不幸にも復職が見込めない場合には、退職等の手続きを取ることとなります。従業員の地位を失わせるという重大な手続であり、誤った場合のリスクも大きいことから適切な根拠をもって対応していきます。

 

4.事後対応

(1)労災申請への対応
メンタルヘルス不調が業務上の疾病であると従業員が考える場合、労災を申請することができます。労災は基本的には国に請求する手続きですが、書類提出や調査への対応などの手続きが発生します。また、労災が認められると、企業の安全配慮義務が認められやすくなるという事実上の重要な影響もあります。

 

(2)損害賠償請求への対応
従業員がメンタルヘルスを害してしまった場合、その原因が過重労働や上司等のパワハラにある等として、会社に対し安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求を求めるケースがあります。また、不調者に対して会社が行った休職命令、休職期間満了に伴う退職、メンタル不調を見逃した懲戒処分や解雇等の対応について、紛争化するケースも少なくありません。

 

以上のとおり、企業のメンタルヘルスへの実務対応として、事前の体制整備から、日常の対策、不調者発生時の対応、紛争化の在り方までを概観しました。

 

それぞれの項目に、過去の裁判例や筆者の実務対応の経験から、検討上のポイントがいくつも存在します。

 

2022年2月17日実施の「裁判例を踏まえた、メンタルヘルス対応の法的実務」では、これらのうち、適切な労働時間管理、休職制度の設計とその運用、労災や損害賠償請求への対応を中心に解説し、裁判例を踏まえ、企業としてどこまで慎重に対応すべきか、厳しい対応に踏み込む線引きとどうするかなど、判断に迷う事項について、勘所をお伝えします。

 

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コラム執筆者

岡本 明子

弁護士

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