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同一労働同一賃金を巡る最高裁判例の読み方

2020年12月23日


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1.3つの最高裁判例

本年10月に、同一労働同一賃金を語る上では欠かすことのできないリーディングケースというべき3つの最高裁判例が示されました(いずれも労働契約法20条(現在のパートタイム・有期雇用労働法8条に相当)違反が争点)。

メトロコマース事件(R2.10.13)では契約社員に対する退職金支給、大阪医科薬科大学事件(R2.10.13)ではアルバイト社員に対する賞与支給、日本郵便事件(佐賀・東京・大阪)(R2.10.15、本稿ではまとめて1件としています。)では契約社員に対する扶養手当、年末年始勤務手当、祝日給の支給と、夏季冬季休暇、病気休暇の付与が主な争点となっていました。

結論として、最高裁は、メトロコマース事件及び大阪医科薬科大学事件では退職金支給、賞与支給がないことは不合理ではないと判断した一方で、日本郵便事件では、いずれの手当、休暇についても契約社員に支給・付与がないことは不合理であると判断しました。

2.最高裁の判断手法

上記判例に先駆けて労働契約法20条違反が問題となった長澤運輸事件及びハマキョウレックス事件(いずれも最判H30.6.1)において、最高裁は、有期雇用社員と無期雇用社員の労働条件の相違の不合理性を判断する際には、個別具体的な事情を勘案して、問題となる労働条件ごとに検証する方法を採用しました。
有期雇用社員と無期雇用社員の給与総額を比較するのではなく、退職金や賞与、各手当といった労働条件ごとに比較して、有期雇用社員と無期雇用社員との間で相違を設けることが不合理か否かを判断する、というものです。

上記3つの判例もそれを踏襲して、個別の労働条件ごとに不合理性の判断をしています。

3.最高裁の判断は「ぶれて」いるのか?

さて、上記のように結論が分かれたことについて、最高裁の判断が統一されていないのでは、との印象を持つ方もいるかもしれません。

しかしながら、最高裁の上記判断は、ある一定の基準に沿って示されていることが窺えます。それは、有期雇用社員と無期雇用社員との間の労働条件の相違が、提供されている労務の内容の差から導かれるものか(その労働条件は労働への対価なのか)、ということです。

例えば、日本郵便事件で争点になった年末年始勤務手当について考えてみましょう。
これは、年末年始という、本来であれば多くの社員が休暇を取得する時期に勤務してきた者に対し、具体的な労働の成果や組織への貢献度に関わりなく、その時間を業務のために費やしたことへの一種の褒賞として支給されていた手当です。
つまり、この手当は労働への対価ではなく、有期雇用社員と無期雇用社員が提供している労務の内容の差から導かれると言えないことから、最高裁も、有期雇用社員(契約社員)に支給されていないのは不合理だと判断したのです。

一方、メトロコマース事件で争点となった退職金は、制度自体が基本給(ひいては正社員の人事制度)に連動しており、無期雇用社員(正社員)の長期処遇や人事政策と密接に関連していました。
それゆえ最高裁は、退職金は、無期雇用社員の労働への対価としての性質を有しており、有期雇用社員と無期雇用社員が提供している労務の内容の差によって支給の有無が導かれるとして、有期雇用社員(契約社員)に支給されていなくとも不合理でないと判断しました。

このように、結局のところ最高裁は、問題となっている労働条件について、それが設けられた趣旨を解きほぐし、かつ、それが労務の対価と評価できるか否かという一定の基準から検証しているのであって、決して場当たり的な判断しているものではありません。

4.留意点

以上のとおり、上記判例において最高裁が一定の基準に従っていることはご理解いただけたかと思います。

もっとも、これらは「事例判断」、つまりその事案だけに対する判断にすぎません。したがって、仮に日本郵便事件と同じく「扶養手当」という手当があったとしても、名称が同じというだけでは上記判例と同様の結論になるわけではありません。
重要なのは会社ごとの人事制度、人事政策といった個別具体的な事情です。ただ最高裁判例の字面だけを追い、その内容を鵜呑みにすることのないよう充分に留意して、自社の制度を設計していただければと思います。


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コラム執筆者

中川 洋子
榎本・藤本総合法律事務 弁護士
東京大学法科大学院修了、2015年弁護士登録(第一東京弁護士会)。
企業法務(労務、会社法、コーポレートガバナンス等)に関する紛争予防、紛争解決、一般民事事件、刑事事件などを取り扱う。
経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。

著書・論文

  • 『多様化する労働契約における人事評価の法律実務』(共著、第一東京弁護士会労働法制委員会編、労働開発研究会、2019)
  • 『現在の制度検証から労働組合との交渉まで 制度変更時のプロセスに即した実務課題と紛争予防の視点』(中央経済社「ビジネス法務」2020.12)

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