働き方改革を踏まえた
 労務管理の再チェック②
~働き方改革関連法に対応した就業規則改定のポイント~

2020年08月21日

第2回は、働き方改革関連法を踏まえた就業規則改定のポイントを取り上げます。法改正の施行からはや1年が経ちますが、法改正を踏まえた改定が不十分な場合や、法改正の内容を就業規則にどう落とし込むか分からないという相談を受けることもあります。

そこで今回は、就業規則改定の観点から法改正の内容をご説明します。

時間外労働の罰則付き上限規制

法改正により、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超える時間外労働は、原則として月45時間・年360時間までであり、36協定の特別条項を用いても、年6回を限度に①単月100時間未満、②複数月平均80時間以内、③年720時間以内におさめなければならないという法律上の規制が加わりました(①と②は、休日労働時間数を含みます)。これに違反した場合には、罰則が科されます。この上限規制は、健康問題(過労死、過労自殺)の原因である長時間労働の是正を目的としています。

この法改正に伴い36協定が新様式となっており、多くの企業が締結をし直すタイミングで切り替えをしているかと思います。実はこの法改正の内容は、新様式の36協定に反映されているため、法改正対応という意味では就業規則の改定は必須ではありません。

もっとも、36協定で締結した内容を超えて時間外労働を行ってしまう事態が生じないよう、時間外労働等のルールを厳格化しておくべきです。例えば、時間外労働等を行う場合には、事前に上長に届け出て、その許可を得て行う旨の規定を入れておくことが考えられます。また、部下が上限規制を超える時間外労働等を行うことがないように管理することが上長の責務であることを服務規律に明記することも考えられます。

大切なことは、就業規則の改定を行うことで、その企業が法改正による上限規制を遵守して長時間労働を是正することに努めるというメッセージを労働者に周知する点にあります。法律上は就業規則の改定が必須ではないから対応する必要はないという姿勢ではなく、時間外労働削減に向けた企業のスタンスを示す意味で、就業規則の改定を行うべきと考えます。

通常の労働時間制度を維持したままでは上限規制を遵守することが困難であれば、各企業の実態に合わせ、月単位の変形労働時間制、年単位の変形労働時間制、フレックスタイム制などを導入することも一案です。この場合には、就業規則の改定はもちろん、労使協定の締結が必要な場合もあります。

年次有給休暇の時季指定義務

法改正により、年次有給休暇の時季指定義務が定められ、年10日以上の有給休暇が付与される労働者には、そのうちの5日について、使用者が時季を指定した上で年次有給休暇を取得させなければいけません。これに違反した場合、使用者には罰則が科されます。

労働基準法上、「休暇」は就業規則の絶対的記載事項ですので、年次有給休暇の時季指定の方法について就業規則に規定する必要があり、ここが就業規則改定のポイントです。

法改正の趣旨は、年次有給休暇の取得促進にあるため、労働者が自発的に年次有給休暇を取得した場合には使用者は義務を免れます。そのため、労働者に年5日は必ず年次有給休暇を取得してもらえば、法違反は生じません。

そこで、半日単位の年次有給休暇の制度を導入し、年次有給休暇を取得しやすい環境づくりをしていくことが、法改正対応として考えられます(他方、時間単位の年次有給休暇を導入しても、使用者の義務は免除されませんので注意が必要です。)。半日単位の年次有給休暇は就業規則に規定すべきですので、この点も就業規則改定のポイントといえます。

同一労働同一賃金

法改正により、短時間労働者及び有期契約労働者に適用される法律として、パートタイム・有期雇用労働法が整備されました。同法では、通常の労働者と短時間労働者及び有期契約労働者との不合理な待遇差を設けることが禁止されています。ここでいう待遇差には、賃金だけではなく、福利厚生(福利厚生施設・転勤者社宅の利用、慶弔休暇等の有給補償、病気休暇の取得等)も含まれます。

企業として、まずは就業規則・賃金規程・雇用契約書を基に、どのような待遇差があるのかを把握し、その結果、待遇差の理由が「正社員だから」「非正規社員だから」という点にしかないのであれば、見直しをする必要性が高いと考えます。待遇差を設けること自体が違法なわけではありませんので、どのような待遇差であれば、「不合理」とはいわれないかを企業の実情に合わせて検討し、就業規則等に反映していくことになります。この点は判断が難しいため、専門家の意見を踏まえた検討が必要です。

今回の法改正に伴って就業規則改定が必須といえるのは、年次有給休暇の時季指定義務くらいであり、この意味では、就業規則改定に与える影響は大きくないといえます。

ただ、就業規則は、企業の成長や発展に伴って改定を重ねていくべきであり、何年も同じ就業規則を維持し続けることは、実態と乖離し、無用なトラブルの温床になります。

就業規則の改定は、労働者とのトラブルを勃発させるリスクもありますが、働き方改革が標榜されている今であれば、改定にあたって労働者の理解を得やすく、トラブル回避につながるため良い機会と考えます。

改正法の施行から日数が立っていますが、現時点でも、働き方改革対応を理由に就業規則の改定を説明することも、決して遅すぎることはありません。

コラム執筆者

柴田 政樹松田綜合法律事務所 弁護士(東京弁護士会)

労働訴訟(労働者たる地位の確認請求、残業代請求等)、労働審判手続き、団体交渉、企業の労務管理のアドバイス、就業規則の改定等、労働案件を多数担当。

執筆 ・「合同労組からの団体交渉の申入れがあったら」(日本実業出版社・企業実務2016年1月号)
・「退職勧奨を契機として精神疾患等を主張されたら」【共著】(日本法令・ビジネスガイド2017年2月号)
・「副業容認で注意すべき企業の民事責任と対応策」【共著】(日本法令・ビジネスガイド2018年10月号)

講演実績 2016年11月 社会福祉法人における労務対策セミナー(神奈川)
2017年2月 企業における労働時間リスク対応セミナー(東京)
2018年4月 医療機関向け労働時間リスク対応セミナー(東京)
2018年5月 労働訴訟を踏まえた労務対策セミナー(神奈川)
2018年10月 医療機関向け労働時間リスク対応セミナー(広島)
2018年12月 働き方改革対応セミナー(東京)
2019年2月 労基署対応セミナー(千葉)
2019年2月 働き方対応書式セミナー(大阪)
(その他多数の労務セミナーを担当)

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