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お役立ちコラム

最新裁判例を踏まえた労務リスク対応の重要性

2021年06月09日

1 はじめに

事業運営にあたり雇用は不可欠のものであり、雇用をする以上、会社側には労務リスクが付きまとうことになります。過労死や過労自殺という痛ましい事件の発生や「ブラック企業」という言葉が社会に浸透する中で、労働基準法、労働契約法等の労働関係法令を遵守することの意識は高まっているといえます。

しかしながら、時代の変化に伴い労働関係法令は随時法改正が行われており、最新裁判例も多数出されています。いわゆる同一労働同一賃金に関して、改正されたパート有期労働法が2020年4月1日(中小事業主は2021年4月1日)より施行されており、5つの最高裁判決が出されたことも記憶に新しいところかと思います。

このような状況の中で、会社側としては常に最新情報をアップデートしながら労務リスクへの備えをしておかなければなりません。一口に労務リスクといっても能力不足や勤怠不良を理由とする解雇、残業代請求、過労死や過労自殺、ハラスメントなど、その種類は多様ですが、以下では、ご相談が多く実際の紛争になりやすいテーマに絞ってご説明します。

2 解雇リスク

解雇は一般的に会社にとってのハードルが高く、無効と判断される可能性が高いことは広く認識され始めています。ただ、労働訴訟や労働審判手続きなどの法的紛争の場で裁判官等と直に接している弁護士の立場からすると、法的意味における解雇のハードルを会社の方が十分に認識できているとは言い難いと感じます。

解雇の有効性は「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当」性から判断されますが(労働契約法16条)、重要なことは、①解雇理由となる能力不足、成績不良等の有無や内容だけではなく、②使用者が十分な改善の機会を付与したか否かという点も同じレベルで重要視されるということです。会社側のご相談を受ける場合、②が乏しいケース(そもそも改善指導をしたことがない、改善指導はしたものの記録に残っていない)が多いです。このようなケースではこの点だけをもって解雇が無効と判断されてしまうことがあります。例えば、最新裁判例では業務成績不良の事実は認めながらも、改善指導によって是正し難い程度にまで達していると認めることはできないとして解雇が無効と判断されています(東京地判平成31年2月27日)。

解雇が無効と判断された場合、労働者が職場復帰をすることや、会社側が解雇期間中の賃金の遡及支払義務(いわゆる、バックペイ)を負うなど、非常に重い負担を被ることになります。

昨今、解雇の金銭解決制度の検討が行われていますが、現時点では、労働者の申立てを前提にした仕組みであり、会社側にイニシアティブのあるものではありません。今後も解雇の厳しいハードルは維持されますので、会社側としては解雇のハードルを正しく認識した上で解雇をするか否かを判断することが必要です。

3 残業代リスク

昨今の労働関係法令遵守の意識の高まりはあるものの、労務専門の弁護士目線でチェックすると、いわゆる「サービス残業」の実態はどこかに残っているケースが多く、また労働時間の管理が適切ではないなど、残業代リスクを限りなくゼロにできている会社は多くありません。会社が、正しく支払いをしようと考えていても、正確な理解を欠いているために未払を発生させてしまっているようなケースも散見されます。

また、副業・兼業やテレワークなどの新しい働き方を導入し始めている会社も多いですが(コロナ禍により、やむを得ず導入した会社も多いと思います)、新しい働き方には新たな残業代リスクがあります。人材確保の観点からは、社会の趨勢に合わせた働き方を認めるべき必要性はある一方、リスクを伴っては結果的に会社側が損失を被ることになるため、注意が必要です。

このように残業代リスクは全ての会社が潜在的に負っているものですが、民法改正(2020年4月施行)に伴い、残業代の時効期間は2年から5年(ただし、当面の間は3年)に引き上げられており、より一層リスク対応の必要性が高まっています。これまで支払義務が2年に限定されていたものが5年に延長されますので、単純計算で使用者の負担金額は2.5倍に増えることになり、そのインパクトは大きいといえます。

また、残業代については、特定の労働者が請求をした場合、連鎖的に他の労働者もそれに追随し、多数の労働者からの残業代請求が法的紛争に発展するという性質があることも注意が必要です。

4 健康被害リスク

労働者が長時間労働やパワーハラスメント等を原因として心身の健康を害したという相談は増えてきており、最悪の場合には労働者が自殺をしてしまうこともあります。会社側は労働契約法に基づき労働者が心身の健康を損なうことがないようにすべき義務(安全配慮義務)を負っていますので、この義務に反して健康被害が発生した場合には損害賠償責任を負うことになります。

いわゆる働き方改革において、長時間労働の是正がひとつの大きな目的とされておりましたので、法改正に伴い、使用者に求められる安全配慮義務の内容はより厳しくなっていると考えます。例えば最新裁判例で、会社側が長時間労働の実態を把握しながらこれを放置した事案において、健康被害(具体的疾患の発症)に至らなかったとしても、長時間労働自体による慰謝料請求が認められた例があります(東京地判令和2年6月10日)。もちろん、健康被害を発生させないことが第一ですが、長時間労働を放置したこと自体で損害賠償責任が肯定される可能性があることを正しく認識しておく必要があります。

また、メンタルヘルスの場合、精神不調を理由に労務提供が不十分な労働者に対してどのような対応をすべきかが極めて難しい問題です。精神不調の場合は本人の意向を踏まえて主治医の診断がなされるという性質もあり、会社側として主治医の診断を鵜呑みにせずに会社の判断で対応する例もあります。しかしながら、健康を害した労働者に関しては、休職制度を用いて回復を待つ等のできる限りの配慮をすべきということが裁判例で定式化されております。最新裁判例で休職をさせずにした解雇が有効と判断された事例はありますが(東京地判令和元年8月1日)、会社側の対応として、産業医面談の実施や精神科医への受診を命じるなどの相応の配慮をしたことが認められたからこその事案であり、メンタルヘルス対応に関して、会社側がきめ細かく丁寧な対応をすることが必須であることが窺われる裁判例といえます。

5 終わりに

今回は解雇、残業代、健康被害の3つに絞って、その法的リスクについて最新裁判例にも触れながらご説明しましたが、大切なことは、これらの法的リスクに関してどのように対応するかです。最新裁判例で会社側に厳しい判断がなされた理由を探求することは、会社側の本来あるべき対応を理解することにつながりますので、人事労務に携わるご担当者にとって必要不可欠なものであるといえます。紙面の都合上、法的リスク対応のご説明はできておりませんが、これらの詳細について、セミナーにてご説明いたします。

無料法関連セミナーのご案内

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日程:2021年07月16日(金)
15:00~17:00

コラム執筆者

柴田 政樹

松田綜合法律事務所 弁護士(東京弁護士会)

労働訴訟(労働者たる地位の確認請求、残業代請求等)、労働審判手続き、団体交渉、企業の労務管理のアドバイス、就業規則の改定等、労働案件を多数担当。

執筆

  • 「合同労組からの団体交渉の申入れがあったら」(日本実業出版社・企業実務2016年1月号)
  • 「退職勧奨を契機として精神疾患等を主張されたら」【共著】(日本法令・ビジネスガイド2017年2月号)
  • 「副業容認で注意すべき企業の民事責任と対応策」【共著】(日本法令・ビジネスガイド2018年10月号)

講演実績

  • 2016年11月 社会福祉法人における労務対策セミナー(神奈川)
  • 2017年2月 企業における労働時間リスク対応セミナー(東京)
  • 2018年5月 労働訴訟を踏まえた労務対策セミナー(神奈川)
  • 2018年10月 医療機関向け労働時間リスク対応セミナー(広島)
  • 2018年12月 働き方改革対応セミナー(東京)
  • 2019年2月 労基署対応セミナー(千葉)
  • 2019年2月 働き方対応書式セミナー(大阪)

(その他多数の労務セミナーを担当)

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